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剣鉾とは |
剣鉾は,祭礼の神輿渡御(みこしとぎょ)の先導を務め,悪霊を鎮め
る祭具です。剣鉾の原型は,古代の武器であった銅剣,銅矛などに結び
つける説もありますが,定かではありません。確実なところでは,平安
時代に入り御霊(ごりょう)信仰と結びつき,貞観11年(869)の
祇園御霊会の創始の際には,神泉苑(しんせんえん)に66本の鉾を建 |
て疫病退散の祈願が行われたとされ
ており,絵画資料の上では平安時代
の祇園御霊会を描いた『年中行事絵
巻』に祭鉾として,神輿渡御を先導
する鉾の様子が描かれています。剣
鉾が現在に近い形態としてみられる
のは,史料の上では室町時代初頭で,
絵画資料では,室町時代末の上杉家
本「洛中洛外図」屏風に御霊社の剣
鉾渡御が描かれています。 |
 年中行事絵巻「祇園御霊会」(平安時代)
 上杉本「洛中洛外図」御霊社 剣鉾渡御
室町時代・蔵 米沢市 |
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剣鉾の当家(とうや)飾り |
剣鉾は,悪霊を鎮めるというとこ
ろから,祭礼では鉾差(ほこさ)し
による巡行が行われ,神社の氏子(
うじこ)圏内の住民が奉仕し,地縁
組織又は講組織(鉾仲間)によって
調進されます。このようなことから
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 粟田神社明龍鉾当家飾り |
剣鉾は,神社の所有である場合が少なくその多くは氏子町内や鉾仲間に
属しており,鉾飾りも毎年交替で当家(剣鉾を飾る当番の家)で祭られ
ます。 |
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様々な剣鉾の当家飾り |
 粟田神社瓜巴鉾当家飾り |
 鞍馬火祭当家飾り |
 粟田神社弓矢鉾当家飾り |
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剣鉾の形態 |
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剣鉾の基本的な形態は,鉾先(剣
先)・神額(しんがく)・錺(かざ
り)・吹散(ふきちり)・鈴(りん)
で構成され,棹(さお)につけて用
いられます。 |
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剣鉾の工芸
鉾先は薄い金属板からなり,神額
には神社名や祭神名,紀年銘が記さ
れ,錺には精巧な動植物や紋章など
の金工の意匠が凝らされ,この意匠
が鉾の名称にもなっています。 |
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吹散は,剣鉾が差される際に,棹
頭から吊り下げられる一条の染織品
で,染織技術の進歩に伴い次第に豪
華なものが用いられるようになりま
した。 |
 今宮神社沢瀉鉾吹散
(京都市指定有形文化財) |
 粟田神社瓜巴鉾見送
「鷹図」(堂本印象筆) |
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京都の剣鉾と祭
剣鉾の巡行で行われる鉾差しは,差し手が腰につけた差袋に鉾を直立
させ,長さ6〜7。,重さ数十キロの剣鉾を前後や上下に揺らせ鈴を鳴ら
しながら歩くもので,高度な技術を必要とします。京都市内には,35
箇所の祭礼に177本の剣鉾が出されていることが昭和59年から翌年
にかけての調査により確認されましたが,差し手の減少などから次第に
保存継承が難しくなってきており,当家に飾るだけの所や肩に担いだり,
棹を短くして枠造りにした荷鉾(にないぼこ)や車に積載した形態で巡
行する所が多くなってきています。京都市では,現在も剣鉾差しの形態
を残している一乗寺八大神社,西院春日神社,嵯峨祭,梅ケ畑平岡八幡
宮の4箇所の剣鉾差しを平成2年に京都市無形民俗文化財として登録し,
その伝承技術の保存に努めています。
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 一乗寺八大神社剣鉾差し |
 西院春日神社剣鉾差し |
 梅ケ畑平岡八幡宮剣鉾差し |
 嵯峨祭剣鉾差し |
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